コラム

不倫慰謝料請求と自己破産

妻Xさんの夫Yが女性Zと不倫をしていたとします。この場合,妻Xさんは夫Yと女性Zに対して不貞行為を理由に慰謝料請求ができる可能性があります。慰謝料の相場は事情により区々ですが,50万円から300万円の範囲内に収まることが多いでしょう。私も不倫慰謝料請求の案件を多く扱っていますが,たまに夫Y又は女性Zに多額の借入金があるケースがあります。

不倫慰謝料の支払と多額の借入金の返済が家計収支上合理的に両立できないと裁判所に説明できるような場合,夫Y又は女性Zとして自己破産を選択することがあります。自己破産を選択すると免責という効果によりすべての借金の支払いをしなくてもいいことになります。

では,不倫慰謝料についてはどうなるのでしょうか。破産法では,『破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権』は免責の対象外(非免責債権)とされています(破産法253条1項2号)。したがって,不貞慰謝料が「夫Y又は女性Zが妻Xに対して悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」と評価できるか否かで,自己破産をすることで夫Y又は女性Zが支払わなくてもよくなるかの結論が変わることになります。「悪意」とは,単なる故意を超えて,他人を害する積極的意欲を意味するとされています。

この点について,東京地方裁判所平成13年(ワ)第23574号損害賠償請求事件平成15年7月31日判決は,

破産法366条の12但書は「悪意をもって加えたる不法行為」に基づく損害賠償請求権は破産による免責の対象とならない旨を規定するが,正義及び被害者救済の観点から悪質な行為に基づく損害賠償請求権を特に免責の対象から除外しようとするその立法趣旨,及びその文言に照らすと,「悪意」とは積極的な害意をいうものと解される。故意とほぼ同義という原告の解釈は採用できない。
本件の場合,不貞関係が継続した期間は少なくとも約5年にも及び,しかもAの離婚を確認することなく結婚式を挙げたという事情もあるから,不法行為としての悪質性は大きいといえなくもないが,本件における全事情を総合勘案しても,原告に対し直接向けられた被告の加害行為はなく,したがって被告に原告に対する積極的な害意があったと認めることはできないから,その不貞行為が「悪意をもって加えたる不法行為」に該当するということはできない。したがって,被告の不貞行為すなわち不法行為に基づく損害賠償責任は免責されたということになる。

としています。

この裁判例では,不貞行為に悪質性はあると評価していますが,慰謝料請求者に対し直接向けられた不貞行為者の加害行為はなく,したがって不貞行為者に慰謝料請求者に対する積極的な害意があったと認めることはできないとして,不倫慰謝料は免責債権とするという判断をしています。この裁判例を前提とする限り,不貞行為を理由として慰謝料請求をされていたとしても,不倫慰謝料は特殊な事情がない限りは自己破産により免責,支払わなくてもいいという結論になる可能性が相応にあります。