コラム

支払停止から5年経過した後に業者に返済をしたり支払うと約束された方

消滅時効期間が経過した後であっても、消滅時効を主張することができなくなってしまうことがあります。たとえば、時効期間経過後に業者からハガキがきて、請求されるままに1,000円だけ支払ったというような場合、支払った時点で時効援用権を失ってしまい、その1,000円の返済から5年間は、時効の援用ができなくなる可能性があります(信義則による時効援用権喪失を認めた最高裁昭和41年4月20日判決‐最高裁)。

消費者金融等の中には、時効完成していることを知っていて、時効の援用をされる前にあえて請求して、少額の返済をさせて、時効の援用権を喪失させようとする業者もあります。

しかし、このような場合にも、消費者金融等の時効援用権喪失の主張が、信義則上認められないと判断され得る事案も多数存在します。下記のような事例で、時効期間経過後に弁済があったにもかかわらず、時効援用権喪失の主張が、信義則上認められないと判断されています。

 

宇都宮簡易裁判所平成24年9月25日判決(一部抜粋)

「債務の承認によって時効援用権喪失の効果が生ずるのは、信義則に照らした判断であるから、債務者の行動が債務承認に該当するかどうか、該当するとしてもこれによって時効援用権を喪失したとする債権者の認識を保護するに値するかどうかについては、事案の内容、時効完成前の債権者と債務者との交渉経過、時効完成後に債務を承認したと認めうる事情の有無、その後の債務者の弁済状況等を統合し、債権者と債権者との間において、もはや債務者が時効を援用しないであろうと債権者が信頼することが相当であると認め得る状況が生じたかどうかによって判断することが相当であると解する。

これを本件についてみると、本件債権は、貸金業者である原告と一般消費者である被告との間の継続的貸付取引によって生じたものであるところ、上記認定した事実関係のもとでは、時効完成後の原告の行動は、被告が時効制度等について無知であること、一括払いの請求に対して多くの多重債務者が分割払いの申出をするとともに僅かな金銭を支払うことによりその場をしのごうとする心理状態になることを利用し、被告がこのような申出をした場合には、一括払いの請求を維持しつつも弁済方法について再考を促して分割弁済に応じてもらえるかもしれないとの期待を与えて申出にかかる僅かな金銭を受領することにより一部弁済の実績を残すこと、その後被告に分割弁済の申出をさせることにより残債務の存在を承認したと評価できる実績を残すことを意図したものであると認められる。そして、被告は、まさに原告の意図したとおりの反応を示し、翌日1万円を送金するとともに分割弁済の申出をしたものである。

そうすると、訪問した結果送金された1万円の金額は、本件貸付金の約定利率による残元金約50万円に対する毎月の約定弁済金2万円の半分にすぎず、期限の利益喪失を理由に残額約130万円の一括弁済を求める原告の権利行使の姿勢と比較すると債務の弁済としての実質をなしているとは認めがたいこと、その後全く弁済が行われていないこと、被告の分割弁済の申出に対して原告が当初から応ずる意思がなかったことなどの認められる本件の事情に照らすと、被告が1万円の支払いをしたこと及び分割弁済の申出をした事実は、従業員の訪問請求に対する被告の反射的な反応の域を出るものではないと解される。

したがって、その後、分割弁済の合意ができないにしても被告がその申出どおり分割弁済を継続したなど弁済に向けて被告が積極的な対応をした事実が認められる場合はともかく、被告の対応が上記認定した事実にとどまる本件においては、原告と被告間に、もはや被告において時効を援用しないと債権者が信頼することが相当であると認め得る状況が生じたとはいえないから、仮に原告におい、もはや被告が時効を援用しないであろうと信頼したとしても、この信頼は、信義則上保護するに足りない。」

借金を5年以上返済をされていない方へ

借金をしていたが,5年以上返済を停止していたところ,今になっていきなり業者から支払督促がされた方は少なくありません。また,5年以上支払を停止していたが,裁判所が支払督促が来たのでどうしたらいいかと相談に来られる方もいらっしゃいます。

支払停止から5年以上経過している場合は消滅時効を援用することで支払を免れる可能性があります。しかし,以下の場合は5年以上経過していても消滅時効の援用ができず,業者からの支払請求に応じざるをえません。支払不能であれば任意整理や個人再生等の債務整理を検討する必要があります。どうすればいいかにつき弁護士への無料相談を利用していただければと思います。

●支払停止から5年以上経過していても消滅時効援用ができない場合

①貸付の相手が個人の場合

商法上の商人に該当しない限り,消滅時効期間は10年となります。

②貸付の相手が信用金庫である場合

最高裁昭和63年10月18日判決において、「信用金庫の行う業務は営利を目的とするものではないというべきであるから、信用金庫は商法上の商人には当たらないと解するのが相当である」と判示されており、信用金庫は、商人ではないとされています。したがって、信用金庫が貸主である貸金の時効期間は、10年になります。ただし、信用金庫が貸主の場合であっても、商人である会員の営業のための貸金については、商事債権となりますので、時効期間は5年となります。たとえば、個人事業主や会社が信用金庫から事業資金を借り入れたのであれば、貸金債権の時効期間は5年です。

③住宅金融支援機構の住宅ローン

住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)は、商人ではありませんので、住宅金融支援機構の住宅ローンの時効期間は、10年になります。

④保証協会の求償権

保証協会が主債務者に代わって債務の弁済をした場合、主債務者に対して求償権を取得することになります。そして、求償債権の消滅時効は、保証協会が代位弁済をした時点から進行します。
保証協会は商人ではありません(最高裁昭和60年2月12日判決)ので、保証協会の求償権の時効期間は、通常の債権の時間と同様に10年となります。ただし、保証協会が、商人である主債務者の委託に基づいて保証したときは、求償権は商事債権となり(最高裁昭42年10月6日判決)、時効期間は5年となります。
たとえば、保証協会が、個人事業主や会社の委託に基づいて保証したときは、求償権の時効期間は5年です。

⑤訴訟提起されて判決が確定した場合

債権者が債務の弁済を求める訴訟を提起したときは、その時点で消滅時効が中断します。そして、判決が確定して訴訟が終了したときから、再度時効が進行を始めますが、民法174条の2に「確定判決によって確定した権利については、10年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、10年とする。裁判上の和解、調停その他確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利についても、同様とする。」と規定されていますので、時効期間は5年である債務についても、判決が確定してから10年が経過しないと、消滅時効は成立しないということになります。

⑥債権者に債務承認をした場合

時効の中断事由の代表的なものは、債務の承認です。5年の間で一度でも借金があることを認めたのであれば、その時点で時効は中断し、時効期間の計算は振り出しに戻ります。時効期間の計算が振り出しに戻ったということは、また承認の時点から5年が経過しないと、時効の援用はできないということになります。そして、注意しなければいけないのは、「返済」は債務承認にあたるということです。債務があることを認めたからこそ返済をするのですから、少額でも返済をすれば債務を承認したことになり、時効は中断してしまいます。同様に、支払いを猶予してくれるように申し入れたりすることも債務の承認となり、時効中断に当たります。